広島に原爆を落とす日1998年05月14日 14:50

@PARCO劇場(夜)

今回の舞台を見るのは、少々複雑な気持ちである。
昨年の舞台の後に読んだ原作本があまりにも壮絶で、恐ろしくて、私はいまだに本棚の目に付くところにはそれを置けずにいる始末でして。
千秋楽ではないけど、やたらと関係者が目に付く。それだけ今回の舞台が話題になっているということなのだろう。
今日も同行者はMYとCちゃん。それからSMAP仲間のAさん。席はやや下手よりだが4列目。キャパの小さいこのホールでは出演者の細かい表情や、流れる汗までもがよく見える。

開演。美人の女性上官に思い思いの言葉を口にして、大空に飛び込んでゆく若い特攻隊員。そんなシーンからこの舞台は始まった。
タイトルが「広島に原爆が落ちた日」ではなく「広島に原爆を落とす日」である通り、この舞台の主人公は自らの手で生まれ故郷の広島に原爆を落とす。軍部の思惑は京都への原爆投下を回避し、原爆を落とさせることによって戦争を終結させること。でも、主人公は愛する女性への気持ちを貫くために投下ボタンを押す。
その気持ちをラストシーンで独白と言う形でぶちまけるのだが、このシーンがすごかった。恐らく10分くらいの間ステージに一人で立ち、しゃべりっぱなしなのである。
もともとこの舞台は風間杜夫が主役を張っていたものだそうで、なるほど、言われてみればたしかにこの主人公は風間杜夫とイメージがダブる。でも、去年の舞台からの吾郎ちゃんの成長ぶり(…なんて言ったら失礼ですが)に驚いてしまいました。「鬼気迫る」という言葉がぴったりの迫真の演技でした。
そしてさらに驚いたのが緒川たまき!すごいよ、去年と全然違うんだもん。ちゃんと「役者」になってるよ!(失礼)

この舞台に対する彼らの思い入れにとても心を打たれました。
舞台全体で言えばコメディの要素が多いです。なんてったってつかこうへいですから。でも、ついつい笑っちゃうんだけど、なぜか笑ながらもぞっとするような感覚があって。そういうところがつかさんのすごいところなんだろうなぁと、改めて思ってしまいました。
なんて言うか皮肉が効いてるんですよね。登場人物の一人ひとりのセリフや動きのウラに、当時の軍部に対してか、現代の私たちに対してか、それとも自分自身になのか、ともすれば悲しさすら引き出してしまいそうな皮肉がある。
戦争で犠牲になった人たちを、今の私たちは「何十万人」と一まとめにするけれど、「何十万人」は一人一人の積み重ねなんだと、この舞台を見ながらそんなことをなんだか思っていました。
この舞台に関しては自分の感想をどう文章に直せば良いのかわかりません。私なんぞが語るにはあまりにも大きなテーマなような気もするし。
でも、それでもそのときに感じた何かを私が忘れないこと。思い出すこと。そのためだけでも、レポートを書く価値はあるのではないかと思います。
原作本は角川文庫より出版されていますので、1度読んでみるのも良いかと思います。(舞台とはだいぶ趣が違いますが…。吾郎ちゃんのイラストが目印です) それよりも、また再演された暁にはぜひ見て下さい。
演出的に納得いかないところもありましたが、昨年よりも数倍良くなっていたし、原作を読んだ分とにかく色々考えた舞台でした。

数日後、この舞台は広島で上演されました。ショッキングな内容なため反対論もあったそうですが、地元の教育団体の協力で実現したそうです。戦争を知らないことは同じであれ、それでも幼いころから私たちよりもきっと多くのことを耳にせざるを得ないであろう当地広島の若い世代に対は、役者達の「迫真」から何を感じ取ったのでしょうか。
ふと、そんなことを思いました。

追記:吾郎ちゃんの舞台といえば「夜曲」をぜひ再演して欲しい!もういちど「放火魔」のツトムくんが見たい~!